Interview series

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Date: 2024.09.26

「アーティストのために新しい表現方法を提供したい」

AlphaTheta株式会社

菅沼龍一/呉益明 様

左からAlphaTheta株式会社の呉益明さんと菅沼龍一さん

DJ機器・ソフトウェアを企画・開発するAlphaTheta株式会社。2020年から続く共同プロジェクトに関して、同社の開発統括部の菅沼龍一さん、呉益明さんにお話を伺いました。

関連プロジェクト1: rekordbox ver.7.0.0 / AlphaTheta

Interview-PDJ-Photos-rekordbox ver.7.0.0 / AlphaTheta

関連プロジェクト2: rekordbox ver.6.0.1 / AlphaTheta

Interview-PDJ-Photos-rekordbox ver.6.0.1 / AlphaTheta

Introduction

簡単な自己紹介と社内での役割などを教えていただけますか?

菅沼龍一(以下、菅沼)と申します。開発統括部で商品開発や要素技術開発を担当しています。DJの方々に提供する新しい価値を創出したり、その価値を実現するために必要な技術を先行開発していく部門になります。

呉益明(以下、呉)と申します。同じく開発統括部に所属しており、先行技術の開発に取り組んでいます。具体的には、主に機械学習技術を応用した新機能の検討、プロトタイプの開発といった仕事になります。

どのようにQosmoを知ったのか教えていただけますか?

菅沼:お仕事をご一緒する前から、徳井さんのAI DJプロジェクトは弊社内でも話題になっていましたし、アーティストとしての徳井さんは2000年代前半にレコードをリリースされていた時期から知っていました。

:学生の時からずっと音楽情報処理の研究に取り組んでいたので、近い分野の研究をされている人として徳井さんのことは知っていました。Qosmoも徳井さんが立ち上げた企業として注目していました。

関連プロジェクト:AI DJ プロジェクト

Interview-PDJ-Photos-AIDJ2

About Projects

プロジェクトを開始する時点での問題意識や課題などを教えていただけますか?

菅沼:会社としては、2020年にリリースしたrekordboxにボーカル位置を検知する機能を搭載するにあたり、そこで初めて共同開発をさせていただきました。私自身が正式に御社とのプロジェクトメンバーとしてジョインしたのは2021年の頭ぐらいからです。その後、今年の5月にリリースしたrekordbox ver.7.0.0に搭載されたキューポイント予測エンジンや、また選曲をサポートするレコメンドエンジンが主に一緒に開発を進めていただいた部分になります。

問題意識としては、例えばキューポイントであれば、DJが楽曲のイントロやサビの前後など、楽曲の展開把握やMixポイントの目印としてキューポイントを手動で設定する仕込み作業が負担になっていたので、この作業の効率化を図ることで、DJがよりクリエイティブな部分に集中できるのではと考えていました。レコメンド機能に関しては、プロDJの方々は何万曲もの楽曲ライブラリを所有していたり、最近ではストリーミングサービスの楽曲もプレイできるようになったため、膨大な選択肢から最適な曲を選び出すのは大変です。日々入手する楽曲がライブラリの中に埋もれてしまい、一度も選曲されないままの楽曲も数多くあるようです。なので、DJが次にかける曲を選ぶ際のインスピレーションを与えるサポートができないかと考え、プロジェクトがスタートしました。

クリエイティブに集中してもらうための機能であったり、インスピレーションを与える存在としてのAIということなんですね。

菅沼:レコメンド機能で言えば、どういう曲順で演奏をするのか、その流れを決めたりするのがまさにDJのクリエイティブな部分だと思うので、そこを自動化しようっていう話ではないんです。一般的なAIベンダーさんだと、「DJとは」「キューポイントとは」といったところから説明をスタートしなければいけませんが、御社の場合はその点意識せずとも会話が通じるので、そこは非常に助かっています。

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rekordbox ver.7.0.0に搭載された選曲をサポートするレコメンドのエンジンである「RADAR」機能

呉さんのプロジェクトを開始する時点での問題意識/課題は何でしたか?

:ある程度プロトタイプができた段階で御社へご相談というフェーズだったかと思います。プロトタイプ自体はすでに社内のメンバーからも高く評価されていたのですが、、実際に製品に落とし込むにはもう一歩改良する必要があり、その改良を進めるにあたり相談させていただきました。

プロジェクトを進める上で難しかった点・楽しかった点は何ですか?

菅沼:これは個人的な問題ではありますが、御社とのプロジェクトにジョインした段階ではAIや機械学習に関する知識はほぼゼロの状態でした。当時は社内にもそれほど有識者がいなかったので、技術的な内容を理解するのに苦労しました。ただ、進めていく中で徐々に理解も深まり、私もいい経験をさせてもらったかなと思っています。

:まだ進行中のため何とも言えないところはありますが、毎月1回設けている定例報告会でコンセプトなどお伝えした後は基本的に増田さん(弊社AIエンジニア)にお任せするという形で進めていて、必要な時は定例を待たずに詳細の確認やデータのやり取りを行っています。特に支障はなく進行しているかなと思います。

Qosmoとの共同作業/プロジェクトを振り返っての感想をお願いします。

菅沼:我々としては、DJの方々に喜んでもらえる価値を提供していくことがミッションですので、ここにAI技術をどう織り込んでいくのかを改めて考える機会が多かったなと思っています。AIが便利だからといってDJの仕事を奪いたいわけではなく、AIに自動でDJプレイをさせたいわけでもないんですよね。DJが快適に演奏に集中するためにAIという技術をどう当てはめていくべきなのか、技術の使いどころについては冷静に見極めていきたいと考えています。

Vision

お話を伺っていると弊社と同じビジョンをお持ちなんだと感じます。

菅沼:同じようなビジョンを持っていると思います。アーティストに向けて、クリエイティブな部分をどう高めていけるか、そのためにどんな価値を提供できるかというところかなと思います。

呉さんとのプロジェクトはまだ続いていきますが、今後に向けて期待している部分などあれば最後にお聞かせください。

:今取り組んでいるプロジェクトは、菅沼が取り組んでいた方向性とは少し異なるかなと思います。どちらかというと新しい技術を使って、アーティストのために新しい表現方法を提供するという方向性ですね。アーティストは常に新しい表現を追求しているといいますが、ではその新しい表現とはどういうものなのかというと、なかなか言語化しにくいし、技術者としてもどういう技術を提供できるのか、あるいはそもそも技術者が出る幕なのかということも慎重に考えなきゃいけない。そこも含めてチャレンジングな仕事ではありますが、前向きに捉えてこちらでも(技術者)できる仕事がきっとあるんだと信じて、粘り強く進めて行けたらと考えています。